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激変する世界の歯科技工事情

YouTubeと広州デンタルショーで見る−CAD/CAM新時代−

 この一年間で世界の歯科技工は急激に進歩しました。リーマンショック以降、世界的な不況で産業界で売れなくなった世界中のCAD/CAMメーカーが一斉に歯科業界に参入して来たのです。

 昨年3月ドイツ、ケルンのIDCには100種類以上のCAD/CAMが展示されましたが、その多くが実際に稼動し始めたのです。しかもオープンシステム。すなわちスキャナーで読み取ったデーターが他のメーカーのいろんなCAM、ミリングマシーンや3Dプリンターにインターネットを介して繋がるのです。まず次の衝撃的なビデオをご覧ください。

 「何じゃこのミミズみたいな文字は。左から読むのか?」 高度にデジタル化されたイスラエルのラボなのでヘブライ語です。スキャナーはカナダ製のDentalwings、模型を載せる台座は5軸で自由自在に動きます。レーザーのツインカメラで超早いです。ダイが一度に16個まで読み込めます。印象も直接読み込んで模型を作ることもできます。ビデオの中のジルコニアのコーピングを削り出すミリングマシーンは日本でももうお馴染みですが、金属の粉からメタルフレームを作り出すラピッドプロトタイピング(光造形)はすごいでしょう。E.O.S.というドイツ製のレーザープリンターです。金属粉をレーザーで焼き固めて積層しているのです。金属はドイツBEGOのCo−Cr合金、WillobondC+です。Co−Cr合金は硬いのでミリングには不向きなのです。インプラントのフルブリッジも作り出せます。この機械は欧米だけでなくイスラエルとトルコにも二台ずつ入っています。日本のラボにはまだ入っていませんが今秋、定遠に新型が入ります。

Dental Wings のスキャナーは
すでに定遠にも入りました。
 E.O.S.で作られた
Co-Cr合金のコーピング
模型をスキャン 3Dプリンターで
石膏粉を固めて成形 
同じ寸法精度の模型が作れる。
もう海外のラボへ
模型を送る必要はありません。

 こちらは3Shapeの設計ソフト、アバアットメントデザイナーです。マージン、クリアランスも自由自在です。もちろんワックスアップは不要です。ダブルスキャンなんて時代遅れもいいところです。スキャナーはD700、実はノリタケの刀も大信貿易のWIELANDもスキャナーはこの3ShapにOEMで作らせています。しかしシステムロックがかかっていて他所のCAMには繋がりません。せこいですね〜、宝の持ち腐れです。

OEM=Original Equipment Manufacturer(他で作らせて自社ブランドで売ること)

 3Shapeは今年アメリカのプリンターメーカー、3D systems社と提携しました。技工用CAD/CAMシステムはオープンシステムとはいえ、性能の良いCAMメーカーと提携し互換性のあるデーターを送る必要があります。3Shapeが先行していますが後発のDentalwingsも価格の安いCAMメーカーと提携し、追い上げています。いずれはこの二社のいずれかが世界標準を取ると思います。

http://www.tdsbiotech.com/

 こちらは台湾製のシステムです。ハードもソフトも自社開発です。ナイキの靴を作っている従業員2万人の大企業が投資したミリングセンターが台湾と中国の東莞にあります。大型ミリングマシーンが各30台設置されており、アメリカから仕事が来ているそうです。驚いたことにアメリカからCadent−iTeroという口腔内光学印象で取ったデーターが送られてきてデーターから直接、アバットメントを作製していると言っていました。

台湾製スキャナーとソフト ナイキの靴を作る
CAD/CAM技術を応用
ナイキの靴を作る
CAD/CAM技術を応用

 日本では光学印象はシロナ社のCEREC3Dしか入っていません。このシステムも欧米では既にCERECブルーカムに更新されており全顎印象が可能で自社のネットワークを構築しています。さらに3Mのラバ、アメリカの通販で有名なヘンリーシエインのE4Dというシステムも発売されています。

日本では各メーカーのシステムごとにスキャナーが必要

 これまで歯科メーカーは自社のスキャナーから自社のミリングマシーンあるいは自社のミリングセンターにしかデーターが送れないようにしていましたが、他産業からの進出により一気にオープン化が進むと思われます。優れた技工用ソフトを開発し、高性能のCAMに繋げなければ世界で生き残れません。オープンシステムのスキャナーが一台あれば世界中のミリングセンターに発注することができます。技術と価格が折り合うところに送ればいいのです。オープン化により歯科技工の世界は真にグローバル化します。スキャナーは一台あれば用を足すし、メーカーの価格統制を受けることはありません。まさに我々歯科医にとってはありがたい話です。

 こちらは有名なスイスのインプラントメーカーのスキャナーとプロダクションセンターです。日本でも発売になり、スイスへデーターを飛ばし、かつて日本に工場がなかった時代のプロセラのようにコーピングやアバットメントをスイスで作らせ日本へ送ってくるようです。りっぱな「海外委託」ですよね。

 このように歯科メーカーは自社のプロダクションセンター(マニファクチャー)に工作機械(CAM)を揃え技工所にスキャナー(CAD)を買わせ自社のネットワークに取り込もうとしていますが、海外の巨大ラボの中には自社でマニファクチャーとラボの両方の機能を完備しようというところもあります。例えば全米最大のラボGlidwellがそうです。自社で完成技工物とコーピングなどの半完成技工物を売るのです。台湾定遠歯研も現在、急ピッチで設備投資しデジタル化を進めマニファクチャーとラボの両方の機能を備えた東アジア最強のデジタルラボを目指しています。

 またヨーロッパではマニファクチャーをコストの安い国、イスラエルやトルコに移す傾向にあります。機械化によりあっという間に最新技術のラボが新興国に誕生しているのです。

 ここはタイのラボです。明らかにヨーロッパの資本でしょう。日本のラボより大きくてきれいですね。日本なら距離的にやはり中国ですよね。スイスやスウエーデンにデーターを飛ばしてもいいけど中国はだめですか? 同じCAD/CAMと材料で作るのにそんな差別はないですよね。中国には安くて進んでいるラボがあるのですから。他の産業同様『世界の工場』と言われる広東省に生産拠点を作り、設備投資をして最新の設備を整え、東アジア全体から優秀な若者を集めて技工所を作るのが私の夢です。

http://www.dylabco.com/jp/about.asp

 このラボは大きいですよ。従業員は約1500人です。医療機器製造のISOであるISO13485をアジアのラボで初めて取得して世界14カ国に輸出しています。材料は全て欧米の一流ブランド品です。社長の台湾人は私の友人で大変な親日家であり日本語で営業しています。

 それにここでご紹介した新型CAD/CAMは日本のデンタルショーでは全く見られませんでしたが今年3月の広州デンタルショーには勢ぞろいしていました。中国広東省には輸出用の大規模ラボが多いので高い機械でも買ってくれるからです。

広州デンタルショー
会場の琶州展覧館
中部日本デンタルショーの
約4倍の広さ
上海のミリングセンターブース
TBS『報道特集』に取り上げられた
珠海のラボVEDENのブース
会場内でデモする私

 はっきり言ってここに紹介した海外のラボは日本のラボより設備・技術が上です。そして大型化・機械化して高品質な技工物を低価格で作り、海外に売ろうとしています。一般的な日本のラボは世界から30年以上遅れているのが現実です。日本にも個人としては上手い技工士はいるのですが個人の技量だけで作れるものは時代遅れで、生産性・価格の妥当性では勝負になりません。

 おしまいはカンボジアのラボです。
日本の保険のデンチャーと比べてどちらが上でしょうか?

 ここまでお読みいただいたように、歯科技工のデジタル化によりグローバル化はすでに実現しています。歯科医師の裁量によりインターネットや国際宅急便で発注し、世界中から最新の技工物を納得できる価格で取り寄せることが可能なのです。どこの国にあろうともこのようなデジタルラボが日本のラボよりレベルが低く、安全でないはずがありません。ヨーロッパへの輸入技工物に対する材料規制は日本国内より厳しく、ISOやCEマーキングの国際認証がないと輸出できません。いたずらにレベルの低いラボと比較し危険性を煽り「海外委託を禁止しろ。」とか50年前の法律をたてに「日本の技工士資格が無いと作ったらダメ。」というのは時代遅れのおろかな考え方です。いつまでも「鎖国状態」で遅れた手法のコストパーフォーマンスの低い技工物を患者さんに提供することの方が問題あると思います。一部の人の既得権を守るために患者さんや若い世代の歯科医師が余分なコストを払わされるのは納得がいきません。このままでは日本の歯科は衰退していくだけです。もう海外から刺激を受けて活性化するしか手はないと思います。高度な新技術で作られた良質な補綴」を患者さんに安く提供するなら何も問題はないと思います。

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