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入れ歯の話

≪はじめに≫

 野生の動物が歯を失えば、たちまち食を摂ることができなくなり、生きることがおぼつかなくなります。 生肉や硬い植物を栄養源としていた原始人もまたそうであったに違いありません。 文明が進み、食物を調理する術を身に付けた人間にとって、歯を失うことはもはや死を意味するものではありません。

 しかし、高齢化が進むなかで、ながい老後を楽しく過ごすために「好きな物をおいしく食べたい」という願いは切実です。 もちろん自分の歯を長持ちさせることが大切ですが、失われた歯は入れ歯で補うしかありません。

 ところで人間にとって歯の役割は食べることだけではありません。 王侯貴族なども前歯を失えば、威厳が失墜して地位を失うことになりかねませんでした。あのアメリカ初代大統領ジョージ・ワシントンも入れ歯の具合があまりに悪く、うまく演説できなくなったため三期目の大統領選をあきらめました(これがアメリカ大統領の任期は二期八年という慣習の前例になりました)。 「芸能人は歯が命」というCMがありましたが、白い美しい歯はみんなのあこがれです。

 さあ歯を失って嘆いているあなた!現在の入れ歯はかなり進歩して機能的にも審美的にもかなり満足できる『人工臓器』になってきています。
 

≪なぜ『入れ歯』を入れるの?≫

 歯が抜けた後、入れ歯を入れるのはどうしてでしょう。
歯抜けといっても、一本だけの「ブリッジ」から、全部無くなった「総入れ歯」までさまざまですが、一般的には・・・

口元や顔だちが整う
-審美性の回復-
うまくしゃべれるようになる
-発音機能の回復-
よくかめるようになる
-咀嚼機能の回復-
歯が抜けたままですと、唇がへこみ、口のまわりの皺が目立つようになります。歯の噛み合わせがなくなり、顔の長さ短くなって、いっそう老けて、みえます。 歯がない状態ですと息がもれたりして、正しい音が出せなくなり、言葉がはっきりしなくなります。歯と歯ぐきは発音に大切な役割を持っています。人と話をすることは良い人間関係をつくるもとになります。 よく噛めることは、食事の味や香り、歯ざわりや歯ごたえを楽しむことができ、また唾液の分泌が促されます。よく噛むことは消化吸収の第一段階です。生きるために必要な栄養を摂るためのおおもとです。

そう「入れ歯は」歯が失われたことによって損なわれた機能を人工的におぎなうものです。

 

≪『入れ歯』を入れたがらない人たち≫

(1)奥歯だけ抜けている方
見た目は体裁悪くないので入れようとしません。(図1)

(2)片方だけ抜けている方
残っている片方で食べられるので入れようとしません。

(3)まわりの人のことばにふりまわされる方
「あら、歯がですぎていない?」「前歯が大きいわね」
などと不用意に言われると、せっかくつくった入れ歯をあきらめてしまいます。
 
(1)
(4)急に大きな入れ歯を入れた方
小さい入れ歯から順に大きい入れ歯になるとなれやすいのですが、急に上あごをおおってしまうような大きな入れ歯が入ると、さあ大変です。「吐き気がする」「味がしない」「しゃべりにくい」などと苦情も多く、入れようとしません。
 
(5)高齢になって初めて入れ歯を入れる方
順応する気力が衰えていると、なれにくいのでなかなか入れようとしません。

(6)入れ歯に不信感を抱いている方
今まで使った入れ歯の具合がが悪かったのでしょうか?こんども同じではないかと疑って入れようとしません。

(7)性格がわがままな方

自分の思い通りにならないと、ついがまんができなくなり入れようとしません。こんな人が意外と多いのです。(図2)
(2)

さてあなたはいかがでしょうか?


 

 

≪歯を抜けたままにしておくと・・・≫

(1)抜いた歯の前後の歯が傾いてきたり、抜いた歯とかみ合っていた歯がのびてきて、かみ合わせが悪くなります。(図1,図2)

(2)片方の奥歯だけ、前歯だけで噛んでいると、やがて残っている歯に無理がきて、残っている歯を早く失うことになります。

(3)土手がますますやせて、幅がせまくなり、入れ歯がはいりにくくなります。

(4)最後には、かみ合わせのバランスがくずれて、顎の関節に異常がでたり、口元がまがってくることがあります。

 

≪総入れ歯とはどんなものか・・・≫

●入れ歯が口の中におさまっているわけ

ガラスの面どうしが少しの水分でくっつくように、歯ぐきに入れ歯がぴったり合っていると入れ歯が口の粘膜から離れにくい状態になります(吸着現象)。

●総入れ歯の構造

[人工の歯(人工歯)]
いろんな色・形・材料のものがあります。前の歯は天然の歯に似せてつくられており、
奥の歯はものをかみ砕くのに都合がよいようにつくられています。

[人工の歯ぐき(義歯床)]
人工の歯を固定する部分であり、なくなった歯ぐきをおぎない、また、かんだときの力を歯ぐきに伝える部分です。歯ぐきと接する部分は、なるべく広いほうがかんだときの力を受けるにも、歯ぐきに入れ歯をくっつけておくのにも都合がよいのです。


 

≪部分入れ歯のはなし≫

「入れ歯」を入れると歯がなくなる?!
現在のように虫歯や歯周病の治療が進歩すると、いきなり全ての歯を失って「総入れ歯」になってしまうことはめったにありません。 「部分入れ歯」には1本だけ歯がなくなってしまったものから、1本しか歯が残っていないものまで、さまざまなバリエーションがありますが、おおむね(図1)のような構造をしています。

欠損した歯数がすくなく、両隣にしっかりとした歯があるような場合には、入れ歯は小さくて安定が良く、残っている歯を痛めるようなこともないのですが、なにぶん初めて入れるものですから、思ったより異物感が強く、はずしても残っている歯でかめるので、邪魔くさくなってしまうことも少なくないようです。

残っている歯が少なくなってくると「入れ歯」をバネやハリ金(クラスプといいます)で固定してある歯に無理な力がかかるようになり、歯がグラグラして抜けてしまうことがあります。
こうしてクラスプをかけた歯が後ろから順々になくなっていくこともあります。
このため残っている歯が前歯だけになった場合、歯に連続して冠をかぶせ、補強してから入れ歯を入れたり(図2,図3)、

図2 図3

下顎の前だけ6本になった残った歯を
冠を連結することによって補強する

連結された歯に対し「入れ歯」を装着する
 

さらに1本や2本しか歯が残っていないのにクラスプで「入れ歯」を固定すると、すぐ歯がダメになるので、歯の根だけ残して、根面板というフタをして「入れ歯」のなかへいれてしまう(オーバデンチャー、図4,図5、図6)とかえって入れ歯が安定し、根の周りの歯ぐきもやせません。

図4 図5 図6

上顎に1本だけ残った
歯1根だけ残し根面板で覆う

下顎の両側犬歯も
根面板で覆う

オーバーデンチャー、
見た目は「総入れ歯」だが、
根を残したことにより
歯ぐきはやせず、
「入れ歯」の安定は良い。
歯ごたえも残る。
根っこだけでも充分に使える

また根がしっかりしていれば根面アタッチメントという維持装置をつけて「入れ歯」をさらに安定させることもできます(図7,図8)。

図7 図8

根面板につけたアタッチメントの雄部
 

「入れ歯」の内面につけたアタッチメントの
雌部。維持安定が良くなる。

またクラスプの代わりにアタッチメントを使用すれば、バネやハリ金が見えなくなり、見た目の良い自然な形の「入れ歯」を入れることができます(図9、図10)。

図9 図10

前歯の冠につけられたアタッチメント
 

アタッチメントを使用し、ばねや針金を
見えなくした「入れ歯」見た目スッキリ

部分入れ歯」の制作過程は「総入れ歯」より複雑で手間がかかりますが、保険診療では総額2〜3万円にしかならず、奥歯の1歯欠損に対する3本ブリッジ(約4万円)より低く、歯医者や歯科技工士にとって、もっとも採算のとれないものになっています。
使用する金属なども粗悪なものしか使えず、もちろん前述したアッチメントは保険適応外です。
このような低い評価が「部分入れ歯」を歯抜き装置にして「総入れ歯」への通過点にしてしまっている原因の一つといえます。

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